本書の全般的紹介


 オリバー・クロムウェルは、1640年から60年にかけてのイギリス・ピューリタン革命のカリスマ的な指導者であって、古代ローマ史におけるジュリアス・シーザーに擬せられる。本書は、この英傑の軌跡を辿ることによって、混迷と激動に終始したピューリタン革命の全容を、実証的具体的に再構成しようとするものである。
 
 と言うのは、この革命は、政治社会の変革を指向しつつ、しかし同時にイギリス地域におけるキリスト教諸宗派間の宗教争乱でもあったので、非キリスト教文明に生きる我々日本人にとっては、後発のフランス革命にみられる近代市民革命としての明快性に欠けるものの、しかしこの革命が、世界史上初めて、中世的世界から近代的世界への変転の扉を切り開こうとしたその歴史的意味は、限りなく深く大きいからにほかならない。

 とかく精緻でありつつも、それ故に難解な個別研究に分散してきた我が国のピューリタン革命史研究の原点を改めて見つめ直すため、本書は、チャールズ・ファースとロバート・ポールおよびクリストファー・ヒル、この三者のそれぞれに優れたクロムウェル評伝を駆使して、何よりも実証的に、それ故に平明にこの革命の諸事実を語ろうと試みた。その意味で、少なくとも本書はイギリス・ピューリタン革命についての、基礎的な概説書ないし教養書と言えよう。


                                                                                                          
清 水 雅 夫